ショートショート 「信じてる」

あの人が居なくなってから、どれぐらい一人の夜を過ごしたかしら...


あの人とすごした日々・言葉、何一つ忘れていないわ。
いいえ、一人になってから忘れていた細かな事柄も鮮明に思い出せるようになったもの。


そう、ドアを出る時にあの人とした約束だもの。



「一緒にはいてあげられないけれど、同じ時を生きるんだから寂しくないよね」
「いつも君を抱きしめているからね。たとえ夢の中かも知れないけれど。それぐらいいつも君のことを思っているからね」
「いつも君を信じている、君も僕のことを思って信じてくれるかい?」



言葉と一緒に涙が溢れそうで、コクリとうなずくしかなかった私。
そして私を抱きしめてくれたあの人の力強い腕の感触すら感じることができる。
私はあの時以来止まった時間の中で暮らしているのかも知れない。


でも夢の中に浸ってばかりも居られない。
現実の時の中に私も生きているのだから...頑張って生きようと思う心の隙間からあの人の顔が見え隠れして私をまた不安にする。

ううん、あの人が私を裏切らないことは知っているの。お互い信じあった二人だもの。私を不安にするのは「いま頃どの辺りにいるのか」「安全なのか」「健康なのか」「寂しくないか」そういうことなの。

強い心の持ち主よ、あの人って。だから、ちょっとやそっとのことで根を上げる人ではないわ。責任感も人一倍高いし。だから恒星間パイロットとして一番難しい任務を任されることになったのだけけれど...
でもね、強い反面心は子供の繊細さも持ち合わせているの。
傷ついても他人には見せられない...私も痛いの。そんなあの人の心の中が分かるから。
祈るしかないのは分かっているけれど、何かしてあげられたら私の心もまぎれるのでしょうね...

せめていまどの辺りを飛んでいるのか分かれば、そちらの方角に手を振ることだけでもできるのに...

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Pi..pi pi.. Pi..pi pi

医者「いまは夢を見ているようですね」
男 「この状態でも夢を見ることができるのですか?」
医者「もちろん。脳さえあれば夢も見れるし、体がなくとも五感も感じることができるのですよ」
男 「で、例のホストボディはいつできるのでしょうか...」
医者「機械体との神経連結ユニットの小型化にまだ時間がかかりそうで....10年ぐらいでしょうか...」
男 「私も過去5回のコールドスリープで200年もの時を待ってきましたが、そろそろ体の老化が止められない状態になりつつあります。なんとかこの生身の体で彼女をもう一度抱きしめなきゃいけないんです...」「最後の脳摘出手術の前に約束したんですよ、私は....」

医者「お互い信じ合っているのですね....」

こんな男女になりたいなぁ...