短編シアター 『After Sleep』
Unnnn、Unnnn....
断続的な低周波で目が覚めた。
といっても現実には頭の中で覚めただけで、目を開くことはここでは難しいのだが。これで何回目だろうか、スリープ状態からの覚醒....覚醒自体苦しいものでもないのだが、全神経細胞がまだリンクしていない体で覚醒するもどかしさがある。一種むずかゆさの様な通り過ぎて行かない不快感にも似ている。何か気晴らしでもできればいいのだが、Sleep Cargoの中は生命維持装置以外何もないのだ。
このままスリープ状態に戻ることができれば、単なる「短時間の目覚め」と今の不快感すら忘れることもできるのだが...
むしろこの後に続く無理やりな神経細胞の接続と、まだ繋ぎきらない体を使っての完全覚醒を思うと落ち込んでくる。そろそろだろうか、頭の上から培養液が抜かれていく音がする。
振動とともに、アラーム音がこだまする。
スリープ装置全体が蠕動して、私の体を射出する体制をとりにかかった。
もうここまで来ればなるように身を任せるしかない。
心身をリラックスして「その時」を待つ。周囲が激しく蠕動し、私の足元一帯とともにものすごい勢いで射出される。
衝撃を受けながらも射出口を見ようと必死で頭を上げてみる。まぶたを通じて明かりを感じる。[もうすぐ出口だ!!]
それまでの衝撃がウソの様に止まる。あたりは虚無の世界。体を支える保持具だけが唯一の存在。
射出完了。射出疲れと、何度経験しても慣れない異質な感じが、私を呆けたような状態にする。
「しまった、射出完了の連絡をしていなかったな」言うことをきかない神経を総動員してニヤッと笑ってみせた。
そして....連絡
「オンギャ〜」
覚醒も完了。
仕方ない、また70年ほどこの世で暮らすか...(笑)
生まれる瞬間って、私の場合こんな感じだったんじゃないかなぁ〜? って思うんですよ。
もちろんこれは「生まれ変わり」の場合なんですけれどね。
こんな感じで生まれちゃったもんですから、「人生楽しまなきゃ損」なんておもうんでしょうねぇ〜きっと。(苦笑)