7月1日
- 【特区成立記念日】
8年前のや月1日に香港は英国領から中国に返還された。
そのわずか半月前に1人の男が香港カイタック空港に降り立った。
欧米には関心があるものの、アジア圏はほとんど興味がない様だ。いやむしろ苦手といった方が早いだろう。一緒に飛行機から降り立った他の観光客が口々に「香港中国返還」に興奮しているのに対し、その男は醒めた目で雨季の亜熱帯の空を見つめていた。
空港にはそれぞれの国の臭いがある。
ここは....すえた植物性の油とお茶が混じった様な臭いがする。。。
[なんてぇ、ところに飛ばされちまったんだろうなぁ。。。]温度32度、湿度95%....ネクタイを緩めながらため息をついた。
グリーティング・エリアには前任者が立っていた。
「暑いだろ??」そんな問いに嬉しそうに答えろとでも言うのだろうか?
「ああ...」周囲の騒音に不機嫌になる。
空港ロビーを出たとたんに「吐き気がするアジアの風景」が目に入った。
昔のアジアの映像の再放送の様な.....麻のズボンをはいた男、肩を出したワンピースの女性。上半身裸の配達人...妙に髪の毛が濃い....暑くないのか? 何事もないように行き過ぎる彼ら。こっちはエアコンの効いたロビーから出た瞬間なのに、汗が滝のごとく噴出している。
[こいつら人間じゃねぇ...こんなところで、どうやって人間らしく生きろっていうんだ??]
ひとりごちするしかない。
車に乗り込む。むさ苦しい都会からハイウェイに出る。山側には低木のジャングル。海側は浚渫されていないのか流れのない入り江。どう見ても「アジア」以外の何ものでもない。すがすがしい気候のロスとは似ても似つかわない。アジアのむさ苦しい風景を押し付けがましく見せてくれるが、いっこうに家に着かない。1時間過ぎてようやく家についた。
「香港では珍しい一戸建て...しかも最大規模の住宅街だぞぉ!!」誇らしげに説明する前任者。
[それがどうしたっていうんだよ]
目の前の男がはしゃげばはしゃぐほど、殴りたい衝動が襲ってくる。
珍しい一戸建てかも知れないが、あてがわれたのは二畳強の狭苦しい部屋。
天井のない吹き抜けの分だけ、熱気が抜けない。
エアコンをつけても蒸し暑さで寝られたものではない。
結局、噴出す汗の中でうとうとしただけで朝を迎えた。
田舎町のはずれにある工業団地の中の会社に出社した。
[なんだよ、ここは!! 中国の田舎かよぉ!! 南米でも、もうちっとはステキだぜ!!]
完璧なワナに掛けられた囚人の様なものである。いや、囚人より悪いのは「帰国以外の自由」があることだ。囚人ならば押し付けられた生活プログラムをこなしていればいい。反吐の出そうな環境の中、自分で生活プログラムを創り出していかなくてははならない....しかもこんな田舎で。
服役期間3年。
それがその頃の私。。。
そして気がつけば、いま9年目を迎えようとしている。
人間は「適応能力のある生き物」ということを痛感する。
日本より、香港の方が居心地の良い私がいる。
そういえば、8年前のあの日も雨が降っていた。。。
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おまけ
幼い頃の私の香港のイメージ.....ホング・コングという怪獣(笑)
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